通常は、人事上の問題が問題として意識されるようになると、経営者は人事制度の必要性を感じるようになります。
これが一般的です。
では、この問題がいつから発生したのか、考えてみて下さい。
最近ですか?
いいえ、会社がスタートした段階から、この問題は発生していました。
但し、その解決担当者は経営者でした。
社長自らが解決していたのです。
そのため組織上の問題として認知されることはありませんでした。
ところが、経営者が特に問題であると感じ始めた瞬間があります。
それは、管理者が任命されてからです。
管理者に権限委譲したのに、これらの問題を上手に解決しているとは思えません。
そのときに、組織上の問題となるのです。
管理者が任命されたら、その管理者が経営者に代わって、
A.社員を定着させ
B.社員を成長させ
C.入社希望者を増やさなければならない
そのために、管理者の能力に左右されることが少ないような、仕組みを作っていくことです。
それが人事制度です。
この考え方で取り組まないと、組織的な大問題を発生させることになります。
「うちの管理者には任せておけない」 と言って、
経営者がその解決者になろうとすることです。
はっきり申し上げましょう。
それは無理です。
経営者が、この問題を解決することは、ひとり一人の社員と相対することになります。
時間が足りません。
社員数が少ないときは可能であっても、必ず不可能な時点がやってきます。
そのときに取り返しのつかない組織上の機会損失が生じているのです。
そして、「管理者が育っていない」 と言うのです。
管理者が育っていないのではなくて、育てていなかったのです。
その責任は、経営者にあります。
なぜならば、経営者がいつまでも管理者のマネジメント業務を代行しているのですから。
それは、会社の中で発生する問題を経営者が解決するのが一番いいに決まっています。
誰も否定はできません。
しかし、従業員数が増えて組織が大きくなってくると、時間的にも地理的にも不可能になる時点がやってきます。
それをハッキリと認識できるかどうかで、企業の成長の安定度は違います。
急成長してマスコミに取り上げられることは、素晴らしいことでしょうが、もっと大事なことは、継続して成長することです。
そのためには、次のことを決断すべきなのです。
○管理者にマネジメントをさせること
失敗はあります。
でも失敗なしに成長する管理者は皆無です。
生まれつき、マネジメントが得意だったという社員はどれ位いるでしょうか。
○人事制度をつくり、管理者に運営させること
管理者こそ、この人事制度の運用について理解しなければなりません。
マネジメントの実行を支えてくれるのが、この人事制度なのです。
これをいつ決断するかですが、それは、社員が10人以上になったときです。
この時期に、やっと管理者が1名任命されるかどうかの段階になります。
経営者がひとり孤軍奮闘すれば、やっていける時期です。
この時期に、すでに管理者に人事上の問題解決を委ねる準備が必要となります。
このような理屈で分かることも、実際に実行することは簡単ではありません。
しかし、これまでと同じやり方をして、違う結果を求めることは無理です。
このことは本気で考え、行動してください。
そして、経営者の持ち時間を少しずつ、経営戦略を練る時間に当てて欲しいのです。
この環境には、正しい経営戦略を考えていかないと、社員がいくら頑張って重要業務を遂行しても、業績結果が良くならないということになります。
もう1つ、心配なことがあります。
人事制度等の仕組みをつくり、管理者に運営を任せることが、経営者にとって感情的に抵抗がある場合が少なからずあるということです。
それは、経営者の好きなことだからです。
○社員が入社してきた。「よくぞ入社してきた。我が社の宝だ。きたえるぞー」
○他社と比べて賃金が高い訳ではない。 仕事もかっこいい訳でもない。
すぐ辞めるかもしれないという心配とは裏腹に、今度の新入社員は
なんとか1年勤めてくれた。 「やったー」
○最初の頃は、怒鳴り散らし、蹴っ飛ばしっぱなし。
ところが気がついたら、その社員へのお客様からのお褒めの言葉。
「よくぞここまで育った」
ひとり一人の社員と対峙し、それは真剣に育ててきました。
その社員が成長する様子を見ることは、至上の喜びと言わずして、何と言うのでしょうか。
こんなことを経営者は、何年も何十年もやってきました。
経営者は、この社員を育てることが好きなんです。
だからこそ、このことから離れると、自分が組織の中で空虚感や無力感や無価値観を感じることになるのです。
今までは、全社員から「社長、社長」と、その存在を期待されていました。
常に難しい問題には経営者の登場が求められていました。
それが必要とされない組織運営をしようとするのですから、考えたくもないかもしれません。
しかし、この結末だけはハッキリしています。
○社員が育つ仕組みがない
○管理者が育っていない
もう1つ、これはあまり言いたくないことですが…。
それは経営者の引退です。
人間に生命の終わりがある以上、必ず経営者の立場を辞めるときが来ます。
そのときに、組織をどういう状態にしておくかです。
退任されたあなたの前に、
意思決定のお願いに来なければならない組織か、
それとも意思決定の報告に来る組織か。
どちらでしょうか。
残念ながら、答えは1つしかありません。
それなら、社長の引退時から逆算して、今、何をすべきかを準備しなければならないでしょう。
今回は、このことを具体的に知ってもらうために、推薦図書を1冊紹介します。
『はじめの1歩を踏み出そう』 (マイケル・E・ガーバー著/世界文化社) です。
米国・成長企業500社のCEOがナンバーワンに選んだというキャッチコピーがついています。
「好きなことをやっている」 と気がついたら、それが苦痛になっていたという、経営者なら身に覚えのある内容です。
「どうしてこんなに忙しいのだろう」 と感じたことはありませんか。
そうであれば、そのように行動してきたからです。
忙しいときにやっている仕事は、本当に社長の仕事ですか。
このことに気づく経営者と、気づかない経営者では、今後の事業展開に大きな差が出ます。
私は、今まで何十人もの経営者から聞いた言葉を、今も噛みしめています。
「どうして、会社をこんなに大きくしてしまったのだろう」
企業が大きくなったことを結果として、喜びにするか、後悔にするか、
天国と地獄ほどの差になります。
「人事制度」で、社員の成長 と 業績向上 の支援をいたします。
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近藤経営労務事務所
社会保険労務士 近藤 昌浩